ご覧いただき、ありがとうございます。
銘木の”黒檀”を削り出し、漆塗り、螺鈿にて加飾し製作した過程をご紹介します。
なお、細かい作成過程については本業の方の漆器づくりの製作工程をいくつか参考にしましたのでそちらをご覧ください。
今回は螺鈿キーキャップの製作過程とこだわった点についてご紹介します。
螺鈿とは
螺鈿とは貝をもって飾ることのようですが、螺鈿で検索すると出てくるのは主に漆面に貝を貼り付けているものかと思います。
貝の表面が鮮やかな色になるのは、それ自体が色素(例えば着色料をイメージ)を持っているわけではなく、構造色と呼ばれる光の性質を利用した光学特性を持っているようです。
面白いページを見つけたので、こちらに貼っておきます。
螺鈿キーキャップとは
キーボードのキーキャップを漆器として作製し、螺鈿細工を施したものです。
漆塗りのキーキャップは何例かインターネットで見ることはできますが、
螺鈿のキーキャップは調べた限りでは私が世界で初めて製作したものとなります。(個人調べ)
やっと完成したー💡
— ジョン・マイヤー・キーキャップ (@kiriman_works) 2024年9月22日
Keycap: 自作螺鈿キーキャップ#KEEB_PD #KEEB_PD_R216 #螺鈿 #keycaps #artisankeycap pic.twitter.com/RHC4zz5uoZ
1.0 螺鈿キーキャップの製作‐素体作り
1.1 素体の概要
漆器のベースとなるのは木材だと思います。
キーキャップについても、私の持てる技術をフルで使って木材で作製することにしました。
実は、漆や螺鈿をする前に木ーキャップを木材削り出しで作製していたので、その経験はありました。
このような木製のキーキャップに漆を塗り、螺鈿を盛るようになります。
1.2 黒檀(素体)の切り出し
まずは黒檀をキーキャップの大きさ程度のブロック状に切り出します。
ガタガタやけど、なんとか! ここから細かく整えていきますー
— ジョン・マイヤー・キーキャップ (@kiriman_works) 2024年6月23日
部屋が香ばしい💨 pic.twitter.com/eA9yyAPcui
ちなみに切り出しはドレメルのハンドルーターで行いました。
黒檀は硬いので、ノコギリだと筋肉痛になりそうです。ルーターも本来は使用に適してないと思いますが、力業です!道具を持っていれば、いろいろなことに挑戦できるのでおすすめです。
はい、先生怒らないから、「黒檀削り出しやろうぜー」って言った人手を挙げてー🤚
— ジョン・マイヤー・キーキャップ (@kiriman_works) 2024年6月22日
密すぎて摩擦で焦げそうになるし、硬すぎてノコギリで切り出すと腕筋肉痛になるし、
いいことありませんよー pic.twitter.com/a5wHoDMBta
1.3 黒檀の成形
黒檀をキーキャップの形に整えていきます。
少し余裕を持ったサイズに削り出しているので、治具(というほどでもないが)を使ってやする際のサイズ合わせを行いました。
まぁできんことはないよねっていう感じ💡
— ジョン・マイヤー・キーキャップ (@kiriman_works) 2024年6月30日
ベルトサンダー欲しかったけど、この小ささならこれでなんとか…!
黒檀削り出し中 pic.twitter.com/jjcT3WGSuA
更に、キースイッチがはまる”+”の溝を彫ります。これもお手製の治具でだいたいの場所にあたりを点けました。
今週は仕事が忙しく、あまり進捗はないですー
— ジョン・マイヤー・キーキャップ (@kiriman_works) 2024年7月4日
真鍮がいろいろ加工できて楽しくなってる💡 pic.twitter.com/Hk9pd9yhfF
で、十字に溝がほれたらキースイッチへはまり込むために軸受け周辺を削っていきます。
こんな感じですね pic.twitter.com/BPGb8fvq6B
— ジョン・マイヤー・キーキャップ (@kiriman_works) 2024年7月6日
キー部見ながら彫りほり
— ジョン・マイヤー・キーキャップ (@kiriman_works) 2024年7月6日
全部ルーターでやってるので、煙と熱との戦い🥵#自作キーキャップ pic.twitter.com/vXXRmEgz60
そうすると見慣れたキーキャップの形が完成ですね。
今回はこれを4つ作成しましたので、バリエーションを持たせるために角を落としたものも作ってみました。
螺鈿キーキャップ、 立方体と角削ったのだとどちらがいいですかね…
— ジョン・マイヤー・キーキャップ (@kiriman_works) 2024年7月14日
どう螺鈿をつけていくかにもよるけど、
キーキャップだと角が立ってるよりは押さえやすいかな?難しい…😭 pic.twitter.com/ODWtEGLLEj
1.4 軸受けの調整
十字を切るのも実は大変な作業です。
- キースイッチの出っ張りよりも小さければ、ハマらない。
- 大きすぎると、緩くて押した後の反発で飛んでいく。
- 十字の傾きがあれば、キーキャップを付けた際に斜めになる。
- キャップに対して垂直が出ていないと、付けた際に天面に傾斜が生まれる
最初はハマらないので、キースイッチを当てては削り。
少しずつハマるようになってくると、それを維持したまま深さを出していく。
深さを出すときに木目に沿ってどうしても削りやすさが違うので、斜めになっていく。
それをはめては確認して、少し削って調整、はめて、調整、はめて、調整、はめて、調整、はめて、調整くらい慎重に少しずつ行います。
として、ようやく収まりがよくなります。
この調整で1個1時間程度かかることも多々。しかし、キーキャップとして使えなければ意味がないので地道にがんばります。
まさに!
— ジョン・マイヤー・キーキャップ (@kiriman_works) 2024年7月14日
収まりがいいんですよねー
うーん、そうしようかな💡 pic.twitter.com/t18tXKWu1I
2.0 漆塗り
2.1 漆塗りの概要
漆塗りは用途に合わせて調合された漆を何層にも重ねることで達成されます。
漆は天然の樹脂で、重合(固まる)ととても強固になるため古くから漆器として生活を支える道具に使われていると思います。
ご自身の御茶碗や汁椀はいかがでしょうか?
漆の乾燥は通常イメージする水を抜く乾燥でなく、湿度をコントロールした環境下において酵素反応を用いた重合です。
そのため、漆を塗った後は室(湿度、温度をコントロールした専用の部屋)に入れて乾燥させます。
キーキャップは小さいので、その辺にある手ごろな木箱で実現しています。
漆の色は黒や朱が代表的でありますが、黒は酸化鉄、朱は弁柄(酸化鉄赤)などが顔料として混ぜられているようです。実際、顔料の違いによっていくつも色があるようですが、伝統的な色味がいちばん漆器として王道で漆器とわかってもらいやすそうですね。
手技で難しいところは、以下の通りです。
- 厚く塗ると乾燥時の内外の収縮率の差からかしわが寄ること
- しわが寄るとそこを削るので、何層分も塗りなおし…
- 素手で触るとかぶれること
- ある程度触っていると慣れるようです。私も最近かぶれなくなりました。
あとはほかの塗料にも言えるかもしれないですが、保管に気を遣うことでしょうか。
その難しさゆえに、手間がかかることは多いですが、
漆器は深い色と艶をもち、とても魅力的なものに感じます。
2.2 下地づくり
まずは黒檀に生漆を塗って下地を作っていきます。
本来はもっと密度の小さい桧などを使用するため木の木目が多く出るようです。そこで、生漆は顔料などが入っていないため、砥の粉を混ぜて下地を作るのに使われるようです。
黒檀は木目が細かいために生漆を何度か塗ることで平滑な面が得られます。
最初の加工が難しい分、ここはお得!
螺鈿キーキャップ まずは生漆を重ねて下地づくり 一層目ですでにいい色
— ジョン・マイヤー・キーキャップ (@kiriman_works) 2024年7月16日
ホコリ避けで作業ブースにて塗ってます
漆器だと砥の粉を混ぜた生漆で下地を作って布で補強など必要らしいですが、黒檀を使うことでそもそもの木目が細かくて強度も十分なため生漆だけとしてます pic.twitter.com/9GKMseRxB4
先述の通り、薄く塗らないとしわがよるために
塗っては乾燥→塗っては乾燥を繰り返します。 乾燥は室に入れてだいたい1日です。
で、数回繰り返した後は乾燥後に研磨も行っています。
僕もちょうど作業したところでした😳
— ジョン・マイヤー・キーキャップ (@kiriman_works) 2024年7月18日
塗ったのを← 1500で研磨→
先ほど漆塗り重ねました💡 これで三重目ー https://t.co/IOKbf6fk4g pic.twitter.com/Wpk1WMhH76
正確に覚えてないですが、Xのポストからさかのぼるに5回はその作業を繰り返したようですね。自分が納得のいくまで、何層にも重ねて塗っています。
三歩進んで二歩下がる とはまさにこのこと🙃
— ジョン・マイヤー・キーキャップ (@kiriman_works) 2024年7月23日
漆を薄く塗ってはやすり、塗ってはやすり、
先週から毎日やってます
だんだん面が揃い、そして漆の層がしっかりしてきた気がします💡螺鈿貼るの楽しみやなー pic.twitter.com/MJPmBEdAUL
下地作りでちょうど7日間はかかっていますね。
2.3 螺鈿細工のための漆塗り(上塗り)
上塗りはいくつかの方法に分かれます。
- 摺り漆技法
- 生漆を何度も摺りこんで仕上げる
- 実は2.2の作業がこれ。よく木目の見える漆器がありますが、それにあたります。
- 生漆を何度も摺りこんで仕上げる
- 塗り立て技法
- 上漆を塗るだけで仕上げます。油分によるのか塗った面に光沢があるのでそれだけできれいです。
- 研ぎ出し技法
- 字の通り研ぎだして磨きます。漆本来の深いツヤ、輝きが得られます。
- ただその手間から、最近では減ってきているようです。
- が、採用です。
螺鈿細工は貝を貼り付けた後に研ぎだします。
そこであえて研ぎ出し技法を採用しました。
別名、蝋色磨き仕上げとも言うようです。
この、蝋色というのは生漆の次に塗る上塗りに使用する、油分を含まない蝋色漆から来ています。
以下の写真のように磨く前はツヤがありません。
一枚目はテカリがないですが、これは呂色漆といって研ぎ出すために油分の少ない漆を使っているからです。2枚目は生漆の状態。
— ジョン・マイヤー・キーキャップ (@kiriman_works) 2024年7月27日
表面の艶を出すために油分を含んだ上漆だと、塗りたて技法といって塗ったままでつややかです。
研ぎ出し技法は手間がかかりすぎるために、少なくなってきているようです pic.twitter.com/aEWD66wofK
乾燥後に1500番で研磨して面を出し、さらに塗り→乾燥を合計3回行いました。
生漆の層に酸化鉄の漆黒の層が構築されました。
おわりに
ご覧いただきありがとうございました。
素地の黒檀削り出しから上塗りまで1か月の製作期間!
かなり時間がかかりましたが、納得のいくものができたと思っています。
螺鈿での加飾については、この次の記事で書こうと思っています。
この頑張って作った螺鈿キーキャップはBOOTHに出展しています。よければご覧ください。
https://kiriman-works.booth.pm/items/6140832
適宜情報更新しているのはX(Twitter)ですので、よければフォローお願いします。
https://twitter.com/kiriman_works
それでは次の記事もご覧いただけると幸いです。